「古事記の歌謡」と「ギリシア・ローマ抒情詩」の基本的異相  第13回 (全14回)

第六章 「GR詩」にあり、「記歌」にないタイプの詩歌
 
      ① 風刺・皮肉
      ② 教訓 
      ③ 追悼文(祖国の自由)
      ④ 神への感謝




① 風刺・皮肉 
       
        『古事記』の本文にも歌にもない、「風刺・皮肉」の詩歌。10編。



     『古事記』の本文さらに歌謡の中には、「風刺・皮肉」を語った文章は存在しません。日本の文学作品に風刺・皮肉が見られるのは、大体、平安時代の『今昔物語集』などの説話文学が登場してからで、『古事記』は、古代ギリシア文学から見れば自意識過少、「知能の発育が遅れている」文学です。逆にいえば、「幸福な文学」です。

      呉茂一氏は、「(古代ギリシアの伝説上の)英雄のことごとくが、多かれ少なかれ人生行路の涯において、幸福とは決して言えない、端的にいえば暗い不幸な、末路を嘆かねばならないのは、ある意味でいかにもギリシア的といえる。ギリシア人はけっして明るい、おめでたい人種ではなかったのである。彼らが明朗な、翳を知らない民族のようにしばしば見受けられるのは、彼らの意志の力と、激しい努力のためといえよう。近代的、逆説的にいえば、彼らの絶望が彼らを明るくしたのだ」と、解説しています。(新潮文庫『ギリシア神話』下。p91)

     まず、今回は「風刺・皮肉」のGR詩10編を見ていき、次回で、「教訓・祖国の自由への感謝・神への感謝」を見て、古代ギリシア・ローマの感性を眺め、それと対比して古代日本人の感性を考えていただきましょう。




   ひどい藪医者

ゼウスの 石の御像にきのう、
医者のマールコスが 手をかけた。
すると、石であり、しかもゼウスでありながら、
今日はお葬いということだ。        ニーカルコス(AD2らしい)  




    名医

医者のフェイドーンに
浣腸もしてもらわず
脈さえとってもらわなかったのに、
熱が出たんで奴の名を想い出したら
ころりと死んじまったんだ
この俺は。                カリクテール(伝未詳)




   名医

外科医のソークレースは
せむしのディオドーロスの
曲がった背中をば
治してやると約束し、
大石を三つも積み上げた。
奴は押し潰されて死んじまったが、
おかげで背中だけは
定規より真っ直ぐになったとさ。       カリクテール(前出)




   名医

医者のアーギス先生は
アリスタゴラースに浣腸もせず
指一本も触れちゃおらぬに、
先生が入ってきたそのとたんに
やっこさんは逝っちまった。
これほど効き目のある毒が
いったいどこにあるものか。
さあ棺桶屋の諸君たち、
アーギス先生に感謝して
花束を投げ、花冠かぶせてさしあげろ。       ヘーデュロス(BC3)




   すごい歌手

夜鴉の歌は死をもたらすという、
だがデーモフィロスが歌を唱うと、
その夜鴉が死んじまうのだ。              ニーカルコス(AD2らしい)      




   肖像画家    

二十人も、似顔絵師のエウテゥコスは
息子を生みながら、
その子供の中に、一人として
同じのがなかったとさ。                  ルーキーリオス(AD1)  




   怠け者

怠け者のマルクスときたら
いつぞや牢屋にぶち込まれたが、
そこから出るのが面倒くさいとて
自分からやりもせぬ人殺しを自白したとさ。      ルーキーリオス(前出)  




   守銭奴 

守銭奴のヘルモーンは
大金を使い果たした夢を見て
悲歎のあまり首を吊っちまった。             ルーキーリオス(前出)  




   稼ぐ女房

購入しなくても、食い物が
家にたっぷりある男。
そりやね、あんた、
かみさんが不貞を働いているってことなのさ。     カリクテール(伝未詳)




   女徳

女はみんな癪の種
とはいうものの二度だけは
女はいとも有りがたや。
一度は婚礼の宴果てて
新手枕を交わすとき、
一度はようやく息絶えて
あの世に行ってくれるとき。                 パルラダース(AD4)









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