「古事記の歌謡」と「ギリシア・ローマ抒情詩」の基本的異相  第11回 (全14回)

第四章 美人・健康・酒讃歌 

③ 酒讃歌

       単純に酒を讃えているだけ……記歌二首
             vs
       死や人生苦を紛らわすために酒を呑もう……GR詩二編





     酒など呑みたくないと言う人はいないというのは、世界共通の真理ではないでしょうが、酒を讃える詩歌があることは世界中の文学作品共通の事実でしょう。「記歌」にも「GR詩」にも酒讃歌はたくさんあります。ただ、やはり両者には異なる点があり、「記歌」が単純に酒を讃えているだけなのに対し、「GR詩」は、死や人生苦を紛らわすために酒を呑もうというニュアンスが大変強いということです。このようなニュアンスの酒讃歌は、「記歌」には全く見られません。まず、「記歌」の楽しい酒讃歌・三首を見ていきます。




(ⅰ) 応神天皇の母親が、特別な酒を醸造して天皇にさしあげる時、
    母親が天皇に詠んだ歌

この御酒は わが御酒ならず。
酒の司(くしのかみ) 常世にいます
石立たす少名御神(すくななみかみ)の、
神寿(かむほ)き 寿き狂ほし
豊寿(とよほ)き 寿き廻し
献り来し御酒ぞ
残さず飲(を)せ。ささ。

(このお酒は私のお酒ではございません。
 お酒の長官 常世におられる
 少名御神が
 祝って祝い狂わせ
 祝って祝い廻って
 献上したお酒ですぞ。
 盃に残さず召し上がれ。  歌謡番号40)





   (ⅱ) 同じ応神天皇が、母親に返した歌

この御酒を 醸(か)みけむ人は、
その鼓 臼に立てて
歌ひつつ醸みけれかも、
舞ひつつ醸みけれかも、
この御酒の 御酒の
あやに甚楽(うただの)し。ささ。

(このお酒を 醸造した人は
 太鼓を臼のように立てて
 歌いながら作ったからか
 舞いながら作ったからか、
 この酒が、このお酒が
 むしょうにひどく楽しいことです。   歌謡番号41)





   (ⅲ) 醸酒の名人・須須許理(すすこり)という者が酒を作り、応神天皇にさしあげ
       た。天皇が飲んで浮かれて歩いていると、たまたま道中に大きな石があった。
       天皇が酔った勢いで、杖で叩くと、大石が痛がって逃げてしまった。
       その時に、天皇が詠んだ歌

須須許理が 醸(か)みし御酒に 
われ酔ひにけり。
事無酒(ことなぐし) 
笑酒(ゑぐし)に 
われ酔いにけり。 

(すすこりが 醸造したお酒に
 私は酔ってしまった。
 災厄を払う酒 にこにこ笑ってしまう酒に
 私は酔ってしまったよ。    歌謡番号50)





     次に、「GR詩」を見ますが、下の二編の詩のように、死や人生苦を紛らわすために酒を呑もうというニュアンスが目立ちます。このようなニュアンスの酒讃歌は、「記歌」には全く見られません。




(ⅰ) さあ、このわしにくれ
    土で作った、甘露を汲むあの杯を。
    土から生まれて、死んだらまた
    土の下に横たわるこの身じゃもの。    ゾーナス(年代不詳)





(ⅱ) プロディケーよ、
    さ、ともに浴みを、
    髪かざしで頭を飾ろうよ。
    そして大きな杯を手にとって
    生酒を存分にあおろうよ。
    人の世の悦楽の時は短いのだ、
    やがて老いがやってくれば
    その日々には
    こんなことも叶うまい。
    して行きつく先は死なのだから。    ルーフィーノス(AD2~5の間)









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